金魚玉の壊しかた
硝子の世界を夢見る金魚
ひぐらしの声が、境内に植えられた木々の間から聞こえている。
あの人の髪のような──黄金色の輝きを帯び始めた陽の光に少し目を細めて、しゃがみ込んでいた私はゆっくりと立ち上がった。
「よォ」と、声がかかって振り返ると、
立ち並ぶ墓石の向こうから
こちらへと歩いて来る結城円士郎の姿があった。
「家の者に、ここだって聞いたからよ」
少しだけ目を丸くした私にそう言って、
「まあそれに……俺も、線香の一つくらい上げておかねえとな」
円士郎は私が今まで手を合わせていた墓石に険のある双眸を向け、無言になった。
しばらく、ひぐらしの声を聞いて、
それから彼はしゃがみ込んで、墓前に手を合わせた。
今日の円士郎はいつものカブいた格好ではなく、まともな良家の御曹司らしい着物姿で、
しゃんと背を伸ばして手を合わせるその所作には、凛とした風格が漂っていて、彼が生まれながらの武家の男であることをまざまざと窺える気がした。
「円士郎殿」
彼の横に立って、その背中を見下ろして、私は尋ねた。
「私は許されないことをしたか?」
祝言の宴の席で、彼が口にした言葉を思い起こす。
「どうだろうな」と言って立ち上がり、
円士郎は私のほうを見ずに、墓石をじっと睨みつけた。
「だが、あんたにとっては仇でも、俺にとってあいつは──友だったんだよ」
あの夜から、半月余りが経過していた。
あの人の髪のような──黄金色の輝きを帯び始めた陽の光に少し目を細めて、しゃがみ込んでいた私はゆっくりと立ち上がった。
「よォ」と、声がかかって振り返ると、
立ち並ぶ墓石の向こうから
こちらへと歩いて来る結城円士郎の姿があった。
「家の者に、ここだって聞いたからよ」
少しだけ目を丸くした私にそう言って、
「まあそれに……俺も、線香の一つくらい上げておかねえとな」
円士郎は私が今まで手を合わせていた墓石に険のある双眸を向け、無言になった。
しばらく、ひぐらしの声を聞いて、
それから彼はしゃがみ込んで、墓前に手を合わせた。
今日の円士郎はいつものカブいた格好ではなく、まともな良家の御曹司らしい着物姿で、
しゃんと背を伸ばして手を合わせるその所作には、凛とした風格が漂っていて、彼が生まれながらの武家の男であることをまざまざと窺える気がした。
「円士郎殿」
彼の横に立って、その背中を見下ろして、私は尋ねた。
「私は許されないことをしたか?」
祝言の宴の席で、彼が口にした言葉を思い起こす。
「どうだろうな」と言って立ち上がり、
円士郎は私のほうを見ずに、墓石をじっと睨みつけた。
「だが、あんたにとっては仇でも、俺にとってあいつは──友だったんだよ」
あの夜から、半月余りが経過していた。