金魚玉の壊しかた
私は微笑んだ。

「そうだな。すまない、無意味な質問をした」

そうしたら、円士郎は無礼にも私を頭のてっぺんから爪先まで眺めて、

「やっぱりあんた、時々どきっとするよな」

と、苦笑した。

「おっと、この場所では不謹慎な発言だったかな。化けて出られちゃかなわねえ」

墓石を見下ろして、円士郎はおどけた。

出会った頃の屈託のない笑顔はそこにはなく、かげりを帯びた笑い方だった。


きっともう、彼が私に向かって以前のように無邪気に笑うことはないのだろう。


鈴を転がすようなひぐらしの声の中、私と円士郎は墓地を後にした。

離れた場所で待っていた私の女中に声をかけ、円士郎に供の者の姿が見当たらないのを尋ねると、相変わらず彼は一人でウロウロしているらしい。

「それで、今日は何の用で?」

「んー、ここのところは色々と大変だっただろうけどよ、また屋敷に遊びに来いよ、留玖も喜ぶし」


三人で連れ立って歩きながら、円士郎は言いづらそうに口にした。

まだ陽のあるうちに若い男とこのように歩くというのは、まあ非常識な行動で、女中がそわそわとしているのがわかったが……私は黙殺することにした。


「その、あんたが俺たちのことを許してくれるんなら、だけどよ」

「許すも許さないも──」

彼の気遣いが嬉しくもあり、可笑しくもあって、私はくすりと笑った。

「私は結城家に対して恨みなど抱いていないよ」

「……なら、いいけどよ」

円士郎は私の顔色を窺うように覗き見た。

道の両側で、西日に照らされて金に染まっている美しい白壁を私は見つめた。


「結城家を恨むのは筋違いだと、あの人が私に言った」
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