金魚玉の壊しかた
結城家というのは、

大名家でこそないものの、この国では先法家と呼ばれる三名家の筆頭で殿様直下、永代家老であった雨宮家よりも更に上の格を持つ特別な家だ。

その格式ある家の、今の長男というのが──


幼少より素行不良、

性格は横暴、傲慢、不遜にして暴力事件を繰り返し、

これまで刃傷沙汰がないのが不思議なほどで、

嘘か誠か町のヤクザ連中とも付き合いがあり、


家柄や身分にものを言わせる真似は滅多にしないものの、
剣の腕は滅法立つため、そちらにものを言わせていて──

──なおさら始末が悪いという、


そんな悪名を轟かせる有名人だった。


しかも、だ。


そんな有名人は、元服を終えて新しい遊びを覚えたのか
最近にわかに色気づいた様子で、色町の遊女や町娘に色目を使い始め──

それがまた、滅茶苦茶いい男だと町の女たちには評判になっていて、


私は、

そこそこ顔が良いせいで
軽薄な女たちに騒がれチヤホヤされて
舞い上がり
調子に乗って
思い上がった
鼻持ちならない名家のボンボンを想像していたのだが……


「こんな美人に知られているとは嬉しいね」

今、私の隣でそう言う結城円士郎の態度や表情からは、確かに不遜で傲慢な性格が窺い知れるものの、


ううむ……これは──

そこそこ顔が良いどころではなく──


成る程、女たちが騒ぐのも納得の、
目元涼しい美青年だった。

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