金魚玉の壊しかた
ひぐらしの蝉時雨に包まれた道に、涼しい夕方の風が吹いた。


「その旦那様は行かないのかよ、墓参り」

言いながら円士郎が、歩いてきた道の先にある菩提寺のほうを振り返る。

「墓参りしないことが一番の供養だそうだ」

私はそんな風に言って微笑んで、

「違いねえ」

と、私の表情を見つめて円士郎も笑い、つとその目を細めた。


「あんたがやったことが、許されないことかどうかはわからないが、俺はあんたに感謝してるよ」


ふふっと私は笑う。


「不要だ。私は私のための選択をした」

「……そうか」


円士郎は頷いて、私の目を真っ直ぐ見つめて、
一言、尋ねた。

私は真っ直ぐに彼を見返したまま、その質問に答えて、


私たちはそこで別れた。



円士郎は結城家の屋敷のあるほうへ、


父の墓参りを終えた私は、

伊羽家の屋敷への帰路に着く。
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