金魚玉の壊しかた
人の心理に通じた彼らしく、心の奥底をえぐるような攻撃的な言葉だった。
武装した人間の見栄や理性を打ち壊して屈辱を味わわせ、激情に駆らせるような。

普段の私ならば、取り乱し、傷ついていたかもしれない。


「逆だよ」


けれどこの時の私は、自分でも驚くほど冷静な声が出た。
この人を受け入れると決めた今、そんな言葉では揺るがなかった。

きっと、彼という人間を受け入れるのは、そういうことなのだろう。


「ただの町娘だったならば、父親を謀殺された恨みに任せてあなたの命を討ち取っていたかもしれない。
だが、私は武家の娘だ。武家の娘だから、あなたを殺さない。

父とて武士だったのだよ。
政敵を闇に葬ろうとしたからには、それなりの覚悟もあって然るべきだ」


都合の良い幻想かもしれないが、私もせめて父のそのくらいの誇りは信じたいと思う。


「それで父の無念を忘れられるわけでも、それにつき合わされた私や雨宮の家の無念な思いが消えるわけでもないが──

それでも、
こちらにも誇りがある。償ってほしいなどとは思わない。

あなたも武士としての道を選ぶならば、自ら敵に命を差し出すような真似はするな!
強かに我々を陥れておきながら、今さらそんな行為は我々への許し難い愚弄だ!」


「ならば、どうせよと言う気だ?」


笑い続けながら彼は言った。

泣き顔にも見えたが、遠い昔に涸れ果てたように、翡翠のような両目からは一滴の涙も流れてはいなかった。


「せいぜい苦しみながらこの先も生き続けろと言うことか。
いつか破滅する様を、私のそばで敵として見届けたいと言うことか!」

「父を謀殺したあなたが、この国でどう政治を行ってゆくのかを見届けたいのだ。
でもそれは──」


私は真っ直ぐに彼を見つめて紡いだ。


「敵としてじゃない。

あなたがあなた自身をどう語ろうと、どう見せようと、あなたが国を思う公正な人間だということを、私は理解しているよ」


この言葉が、絶望と苦しみで満たされた彼の心に届くように、必死の思いで口にした。


「私はあなたの味方だ」と。
< 224 / 250 >

この作品をシェア

pagetop