金魚玉の壊しかた
「あなたはそうやって己を貶めて、
己を慈しむこともできず、
周囲の者に本音も語らず、
偽りで塗り固めて生きることしかしない──」


我慢できずに涙が頬を伝い落ちた。


あの長屋で遊水と交わした会話が偽りだったんじゃない。

あのびいどろの世界の中にこそ、真実があった。

優しくて、
つらそうで、

そんな遊水こそが、彼の本当の姿だった。


この人は、暗い牢獄のような武家社会の中で、

ずっと一人で

周囲を偽って、

己自身を責めながら、

己自身を認めることも愛することもできずに、

苦しみ続けてきたのだ──。


「亜鳥……?」

「私は、あなたに幸せにしてもらわなくてもいい!」


以前も、懐かしいあの長屋で告げた言葉を繰り返して、

愛おしい背中を抱き締める腕に、ぎゅっと力を込める。


「私があなたを幸せにするから。
私がきっとあなたの幸せになってみせる──だから……」


この人が心から微笑んでくれたら、

心から幸せだと思ってくれたら、


私は幸せなんかいらない。

ほかに何も望まない──。
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