金魚玉の壊しかた
彼が腕の力を緩めて体を離し、濡れた私の頬にそっと触れようとして、
手の動きを止めた。

「あ……血が──」

私もその手の平に視線を送ってはっとなる。
先程刀で切った傷から、血が流れ出ていた。

「手当を──」

私は慌てて、彼の手にしっかり布を巻きつけて──


ふっと頭の後ろに手が添えられて、顔を上げた。

優しい緑色の瞳と目が合う。

もう片方の手を私の髪の中に潜り込ませて、青文が顔を寄せ、私は目を閉じて彼に身を任せた。

唇が重なる。
何度も何度も。

唇が離れ、吐息をついた私の首筋から肩へと彼の唇が落ちていって、


押し倒されるように夜具の上に倒れ込んで見上げると、彼は私の横に手をついてためらうようにこちらを見下ろしていた。

「怖くないか」

と、整った唇から静かな問いかけが降ってきて、金色の眉が少しだけ寄せられた。

「こんな男に抱かれるのは」

相変わらずの自虐的な言葉に、私は苦笑した。
もっとも、苦笑のつもりだったけれど、ただの微笑になったかもしれなかった。


ゆっくり腕を伸ばして、彼の髪紐を外した。

絹のような金の髪が、さらりと流れ落ちて私の頬をくすぐった。


「少し怖い」

正直に口にする。

「その……私だけ初めてというのが……何だか不公平だ」

頬が熱くなるのを感じながら、一瞬そっぽを向いて言うと、

緑色の双眸が少し見開かれて、それからふふっと、柔らかい微笑みが浮かんだ。

「そいつは失敬。確かに俺は初めてじゃないな」

今さらすぎる内容を口にして、

彼の手が、以前は決して触れようとしなかった私の帯を言葉通りの慣れた動作で解いた。
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