金魚玉の壊しかた
夜遊びって──その格好で、何の遊びだ?
稽古帰りのような円士郎の格好を見て私は訝った。
私の視線にもお構いなしに、彼は一人で肩をすくめる。
「抜け出すのは簡単なんだが、うちの屋敷って警備厳重で侵入するのは結構難しくてよ」
そりゃまあ……そうだろう。
重臣の屋敷がそんなに簡単に侵入できる警備体制では──大問題だ。
「七ツ頃にある門番の交代が侵入の好機なんだが──」
少し虹庵に似た、険のある鋭い眼差しをぎらつかせて彼は不敵にニヤリと笑い、
「それまで、行く宛てがなくてな。
悪ィが一晩置いてくれねーか」
城下の有名人は、しれっと非常識極まりない発言をした。
甘い美貌の上流階級の御曹司というだけではなく、どこか危険な香りがする町の風評に加え自信に満ちたこの態度。
こんな男から泊めてくれと頼まれれば、
刺激を求める若い娘は、むしろ積極的に一夜の過ちを期待したりして
喜んで受け入れるものなのかもしれないが──
「すると何かね?」
私は壊された戸と、彼につかまれ赤く内出血している手首を見てうめいた。
我ながら地獄の底から響いてくるような怒りの滲んだ声が出た。
「貴様は、夜遊びで遅くなったから一晩泊めてもらうために──強盗の如き手段で見ず知らずの他人の家に侵入したということかね……!?」
「んーまあ、そうなるな」
「出て行きたまえ!!」
戸口をびしっと指さして、私は怒鳴った。