金魚玉の壊しかた
どうやら大福を買いに来たことは頭から綺麗さっぱり抜け落ちたらしい。

じゃあな、と円士郎は武家屋敷の並ぶ方向へときびすを返そうとして、


「円士郎殿」


私は彼に声をかけた。


「何だ?」

「あの質問の答えだが──」


円士郎はまた、ん? と少しだけ頭を捻って、

すぐに先程の会話を思い出して何のことか理解した様子だった。


私は、そっと隣にいる愛おしい人の手に自分の手を重ねる。



「これからも、見ていてくれ」



この人が幸せなことを。

私が幸せなことを。



円士郎は首肯の変わりにニッと口の端を吊り上げて、去って行った。


その手につり下げられて、キラキラと光を放つびいどろとその中で揺らめく赤い色を、私はいつまでも見送っていた。
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