金魚玉の壊しかた
今でも時々、あの長屋で互いに正体を知らずに過ごしたびいどろの時間を夢に見ることがある。

あの砕け散った世界はいつも綺麗で、遠ざかっていく金魚玉のようにキラキラと輝いていた。


私が重ねた手を、そっと彼が握り返してくれた。


出会った頃と同じ格好でこうしていると、まるで透き通った偽りの水の中に戻ってきたような気分になる。


私が恋し、愛したこの人は、いつ破滅へと繋がるかも知れぬどうしようもない過去と罪とを抱えて、薄氷の上に立つように権力の座に居る人だった。

あの薄暗い座敷牢の中で生きている、彼の罪の象徴だという老人。
その存在が無くなった時、彼は己の凶刃を納める鞘も失われると語った。

私は、私の存在がその時、彼の鞘になればと思う。
鞘になるようにと願う。


私と彼の現実は冷たい濁流のようにどこまでも過酷だ。

それでも私は私が選んだ彼との人生を、最後まで泳ぎ続ける。
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