金魚玉の壊しかた
そんな彼の様から、



成る程、こういう男か──と、

私は、理解した。
こいつは……モテるはずだ。



根は優しい質なのだろう。

一見粗暴で横柄な振る舞いにも関わらず、根本の所では相手への気遣いもちゃんとあり、気遣いをためらわず即座に態度で示せる。


最初に思い切り不快な思いをした分、
後の優しい態度は衝撃的で、際立って印象に残った。


ヤバいぞ、

出会ってわずかだというのに、
この短時間で、免疫のない私なんて既に惚れそうだ。



ともかく、

私は言われたとおり、筆を握ってみる。

もともと手を強く握れば痛む程度だったこともあって、特に絵を描くことに支障はなさそうだ。


結構ちゃんとした処置だった。

私が感心すると、

「虹庵先生から、傷の手当てについては一通り教えてもらってるからな」

と、彼は言った。


斬り合いになって、自分や他の者が傷ついた時のため──というところだろうか。

若いのに、なかなか一人前の武士らしい心がけだ。


「それで、いつもそんなものを持ち歩いているのかね?」

塗り薬を示して私は訊いた。

「ああ、これは──持ち歩けって言った奴がいるんでね」

「女か」

「……まあ、女だな」


薬を彼に持たせた相手を思い浮かべているのか、優しい目つきになって円士郎はそう言った。
< 28 / 250 >

この作品をシェア

pagetop