金魚玉の壊しかた
勘違いしないでくれたまえよ、諸君。

私は何も、後の世に名高き鳥山石燕先生のように、

百鬼夜行だの
妖怪図画などを

描いていたわけではないのだ。


私が描いていたのは生き物の図である。

鳥や獣や魚や虫。


普通の鳥獣画と大きく異なっていた点を挙げるなら──

私はそれらの普段目にすることのない姿を描いた、ということだろうか。



例えばヒナになる前の、卵の中の鳥の姿。

例えばオタマジャクシになって泳ぎ出すより前の、卵の中のカエルの姿。

或いは今まさにさばかれようとしている魚の、内臓や骨の見える姿。


そんな姿の生き物たちが踊っていたり、人の側にいたりする図だ。

つまり神秘で生への讚美に溢れた生き物たちの不思議な姿を描いていたつもりだったのだ──


──が、世間はそうは受け取ってくれなかったようだ。




諸君らと違って、学校の理科室に標本が飾ってある時代ではないのだから、仕方ないことではあるが、

私の絵を見たものは一様に妖しい絵だと

恐怖し、
のけぞり、
奇異の目を向けた。


当然、描いた絵は一枚たりとも売れず……


家を飛び出した手前、私もそれでは食べていけないので、

描きたくもない普通の獣や鳥の図も描いたりしながら、細々と生活していた。

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