金魚玉の壊しかた
遊水が目だけ動かしてこちらを見た。
「花器に生けた花も、金魚玉の金魚も、多分ほんの一時だけ愛でるから綺麗なものなのだと思う」
以前、彼が戸口の横に吊してくれた、ちいさな水玉を思い出しながら、私は言った。
「ずっと愛でていれば──」
花器の花は枯れる。
金魚玉の魚は……
「やがて死ぬ」
だから
好きな人とずっと一緒にいられたならば、それは幸せなことなのだろうけれど……
「それだけを愛でて生きることは、私はしない」
それが、武家の女としての──雨宮の家に生まれ育ててもらった私の──責務なのだろう。
「何の話だ」と、遊水が微笑んだ。
「何の話だろうな」と私も微笑んだ。
ちょうど、からりと長屋の戸が開かれて、円士郎がおつるぎ様を伴って現れた。
「え? え? どうして遊水さんがここに……?」
おつるぎ様は、遊水がいるのを見て目を丸くして、
「おっと、お邪魔だったか?」
円士郎がいつものようにニヤッと格好良く笑って、そんな風に尋ねてきた。
「いや、俺はもう戻るところだ」
ごちそうさま、と遊水は私に小さく言って立ち上がり──
ふと、私は円士郎が後ろに見知らぬ男をもう一人連れているのに気がついた。
「花器に生けた花も、金魚玉の金魚も、多分ほんの一時だけ愛でるから綺麗なものなのだと思う」
以前、彼が戸口の横に吊してくれた、ちいさな水玉を思い出しながら、私は言った。
「ずっと愛でていれば──」
花器の花は枯れる。
金魚玉の魚は……
「やがて死ぬ」
だから
好きな人とずっと一緒にいられたならば、それは幸せなことなのだろうけれど……
「それだけを愛でて生きることは、私はしない」
それが、武家の女としての──雨宮の家に生まれ育ててもらった私の──責務なのだろう。
「何の話だ」と、遊水が微笑んだ。
「何の話だろうな」と私も微笑んだ。
ちょうど、からりと長屋の戸が開かれて、円士郎がおつるぎ様を伴って現れた。
「え? え? どうして遊水さんがここに……?」
おつるぎ様は、遊水がいるのを見て目を丸くして、
「おっと、お邪魔だったか?」
円士郎がいつものようにニヤッと格好良く笑って、そんな風に尋ねてきた。
「いや、俺はもう戻るところだ」
ごちそうさま、と遊水は私に小さく言って立ち上がり──
ふと、私は円士郎が後ろに見知らぬ男をもう一人連れているのに気がついた。