未来のない優しさ



「…ねえ、まだ見える?」

囁く私に、くすくす笑いながら

「髪をおろしたから大丈夫。見えません」

孝太郎の視線は私の左耳のちょうど下あたり。

絶対にわざとだ…。

「いつも髪をアップにしている柚ちゃんが、今日はおろしてるからみんな『なんかあった?』って目で見てましたね」

会議室から出て部署に戻る途中、きっと私の顔は赤いはず…。

とっくに就業時間は終わって残業に突入。
昼間は他の打ち合わせや出張でメンバーが揃わない為に、プロジェクトの会議は遅い時間に始まり、今はもう午後10時。

「そのキスマークの相手は健吾さんですか?」

「…えっ。…その…」

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