未来のない優しさ
「こんな話、柚にはきつかったか?
恋人でもない女抱くなんて」

「…確かに…。聞いて気分のいい話じゃないから」

なんとなくは感じてた。

決して少なくはない数の女の人が健吾の側にいてる事。
私とは違って、他に愛した人もいるんだろうって納得もしてる。
それでも。

あからさまに棒読みで話す私に苦笑しつつも目をそらさない健吾は再び。

「彼女なんていないから、ここにいて俺の世話しろ」

「だから無理。稼がなきゃ生活できないって…」


「稼がなくてもいい。
俺が稼いでるし。
忘れてないと思うけど、俺弁護士だから」

「…だから、何?」

「だから、俺と結婚すればいいだろ?」

あっさり。
当たり前の事を当たり前に。

言い放つ健吾は、呆然としている私にむかって

「もう、逃げるなよ」

顔を近付けて、私に言い聞かせた。
まるで私を憎んでいるかのような危うい笑顔で。

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