未来のない優しさ
「うるせぇ」

と言い返す健吾に勢いはなくて、懐かしい表情だけが浮かんでいた。

そう、高校生の頃に毎日向けられていた愛しい顔。

気持ちの浮き沈みを隠さない、健吾の本当の顔がそこにあった。
最近は、私にはそんな姿を自然に見せる事も多くなってたけど、私以外にも昔の顔を見せている健吾は…穏やかさと柔らかさがにじんでいて、もっと好きになる…。

私の肩を抱いている健吾の腕に手を置いて、そっと…にっこり笑ってみせると。

どう見ても…照れてるのを隠そうとして、無理に真面目な顔をしようと頑張る不自然な顔。

「ぷっ」

向かいで、そんな私達を見ていた真田さんは、思わず吹き出した。
体を前に折って、お腹を抑えながら震える笑い方は、女性にもてそうな容姿に似合わず無邪気で。

自然と私の頬もゆるんでしまう。

健吾は、そんな私達を気に入らない風に睨むと、大きく息を吐いた。

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