未来のない優しさ
本当なら、来週の引っ越しの準備を一気にしてしまおうと思っていたけど。
それ以前に、俺の独断で決めてしまった新居に、柚を連れて行かないとな…。

日程が迫っていたせいで、知り合いの不動産屋に紹介してもらったマンション。

柚は気に入ってくれるかどうかが気になる…。

「じゃ日曜日の12時にマザランホテルのロビーに来て。

向こうの担当者はかなりの美人だから、期待していいわよ」

くすくす笑う望の顔を見ると、俺をからかっているのがわかる。

「…楽しみだな。

それより。突然結婚決めたのは何でだ?」

笑っている望の目が、一瞬見開いたけれど、次の瞬間にはもう暖かい光を見せながらてれくさそうに微笑んでいた。

「なに?
やっぱり手放さなきゃよかったなあとか思ってる?」

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