未来のない優しさ
「知ってたならなんで止めないのよ。
柚ちゃんが苦しむってわかってて、どうして放っておくのよ」

低い声が部屋中に響く。
低くて悲しい声が切ない。
その悲しみは、柚を気遣う美晴の優しさと…柚以上の重荷を背負った苦しみ。

「…これ以上、柚ちゃんを不幸にしないでよ」

膝に置いた両手に顔を埋める小さな体に、小さな頃の美晴の姿がだぶって見える。

『健にい』

そう言って他愛ない話をしながら笑い声をあげていた頃。

近所でも美少女と評判の妹が、単純にかわいくて自慢だった。

あの事故で、人生が大きく変えられたのは、柚や葵さん達…だけじゃない。

たった一人の妹。

美晴も…。
明るく笑って過ごすだけの人生を送る事ができたかもしれないのに…。

「美晴だって、これ以上苦しまなくていいんだぞ。

柚と美晴の苦しみ。
これからは…俺が背負うから。

笑ってろ」





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