未来のない優しさ
母親の悲しい気持ちを察したのか、それまでベビーカーで眠っていた杏が突然ぐずりだした。

混乱した様子の美晴を制して、そっと杏を抱き上げると。

「またかわいくなったな」

真っ赤な顔で、俺をじっと見つめる杏。

「お前のママの小さい時によく似てる」

手をぎゅっと握りしめて、ほんのりミルクの優しいにおいをまとった天使。

「杏…杏…」

その特別な名前を、何度も囁いた。

俺と柚のもとに産まれてくるはずだった赤ちゃんと会える事はないけれど、こうして、腕の中に杏を抱いていると。

「美晴。杏…って名前つけてくれてありがとな」

自然にそう声に出していた。

相変わらず硬い表情の美晴は、曖昧に笑いながら

「柚ちゃんにも似てるでしょ。目もととか」

「そうだな。将来は美人になるなお前」

「…のろけてるし」

苦笑する美晴に杏を渡しながら、何気なさを装い。

「あの事故は美晴のせいじゃない。
俺が悪いんだ

柚は俺が幸せにするから


美晴は杏を愛して幸せにしてやれ」

「でも…」

「その代わり。杏の七五三やら入学式とかには俺と柚も参加だからな。
金も口も出すから覚悟しとけ」

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