未来のない優しさ
「いってらっしゃい」
そう言って送り出してくれた柚の表情は少し寂し気で、思わず部屋に戻って抱きしめたくなる。
退職した望からの引き継ぎによって担当する事になった沢木田建設の法務部長との会食。
長い間、俺の事務所が沢木田建設の顧問を担当していて、これからの付き合いを考えると断れなくて。
明日アメリカへ発つ望と会うのも今日で最後になるだろう事も含めて、柚を後回しにしてしまった。
『葵ちゃんとランチしてくるね』
と夕べ聞かされた時、その言葉の裏に
『一緒に行ける?』
という想いを感じ取ったけれど、どうしても応えられない。
「楽しんでこいよ」
と軽く言ってやるしかできない俺に生まれるほんの少しの申し訳なさ。
もともと自分の気持ちを押し通すなんてしない柚は、それ以上何も言わずに優しく微笑んでいたけれど…。