未来のない優しさ
ベージュのスーツを着ている望は弁護士という顔は捨てて、柔らかな表情が自然に浮かぶいい女になっていた。
肩までの髪も下ろしている姿はきっと、恋人の好みなんだろう。

「明日出発だろ?準備はできたのか?」

「うーん。あと少し残ってるけどなんとかなるよ。
一年くらいで帰ってくるから部屋もそのままだし」
あっけらかんと笑う顔があまりにも意外で、これまで悩み事ばかりを抱えている雰囲気だった望と同一人物だと思えない。

「…健吾は?
彼女…柚ちゃんだっけ。
いつ結婚するの?」

「んー。今日これから籍だけ先に入れるんだ」

「今日?」

「…ああ」

思ってもみなかったんだろう。
言葉もなく驚いた顔そのままを俺に向ける望。

「…顔、固まってるぞ」

妙に勝った感じがするのは何でだろうと笑いがこみあげる。

「ま、俺もようやく幸せに生きていけるって事だ」
< 400 / 433 >

この作品をシェア

pagetop