未来のない優しさ
再会してすぐ、柚の本質が変わっていない事に気づいた。

前向きな明るさ。

柔らかい強さ。

切ないほどの頑固さ。

付き合っていた頃の内面そのままに、外見は更に綺麗になっていた。

事故の後、どれほど涙を流したのか、どれほど不安に震えたのか…。

知る事はできなかったけれど、そんな時間をすごしていたなんて感じさせない姿に言葉を失った。

ソファの傍らに座り、額に落ちていた髪をすいてやると、額の右側に小さく残る傷痕。

『体は中も外も傷だらけでポンコツになったけど、顔にはあまり傷が残らなかった』

かなり前にあっけらかんとそう言ってたな…。

ポンコツって一体何だよ。

足ひきずるくらい…。

体に傷痕が残っても…。

汚れた心を抱えて過ごす俺の方がよっぽどポンコツだ…。


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