未来のない優しさ
自分のものじゃないような甘い声でつぶやく私の瞳をじっとのぞきこんだ健吾は、深いキスを落としたあと私が胸元に提げている指輪…を手にして

「ずっと俺にこだわってたのは…柚だろ?」

「…」

はっとしたあと。

何も言えずにただ見つめるだけの私を抱きしめて

「…ベッドに行こう」

言うが早いか、私を抱え上げて。

…ベッドに下ろされた後はただ、健吾の体にしがみついて啼くしかできなかった。

暗い部屋が、私の体の傷を隠してくれるように祈りながら…。
< 86 / 433 >

この作品をシェア

pagetop