未来のない優しさ
「…どうしたの?
何かあったの?」

「…は?」

積まれた資料の山の隙間から、ドアを開けて立っている望が見えた。

「ノックしたのに返事なかったから開けちゃった」

誰が見ても綺麗な顔で笑う姿に思わず苦笑する。

惚れる事はなかったけれど、俺の人生で一番抱いたその体。
色白で引き締まったその体に何度溺れただろう…。

柚が知ったら…俺を軽蔑するだろうな。

「…忘れ物」

「ん…?」

望の手には、腕時計。
指でくるくる回しながらからかい気味に笑っている。

「夕べ私の部屋から荷物引き上げ忘れてたみたい」

「ああ…。悪い」

立ち上がって望の前で手を出すと

「…ねえ。私が健吾の部屋に行くのもだめなの?
夕べも追い返されたけど」

しみ一つない手入れの行き届いた顔で極上の笑顔を向けられても、赤く綺麗な爪で俺の顔を撫でられても…。

「無理。俺結婚するし」

「え…?」

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