成長する
美学や芸術云々といった、琴実の考えを全面肯定するわけではないが、共通点があるのは紛れもないように思えた。

それは、警察、報道側にもあるのだろう。だから、『三件目』という言い方をしたのだ。

パンを食べるのに出した食器を洗っている時――

じゃくり。

と、玄関のキーシリンダーが回る音がした――ような気がした。

「お兄ちゃーん?」

濡れた手をそのまま幽霊のようにブラブラさせつつ、廊下にまで顔を出す。ところが、玄関が開く様子はなく、そもそも、兄の帰宅した気配もなかった。

「……空耳?」

ぼやいて小首を傾げながら、洗い物に戻る。

そして、やがて八時を回り九時を過ぎ、十時を迎えた。

リビングの白いソファーに寄りかかりながら、だらしのない体育座りで、立てた膝と体の間にクッションを抱いていた美幸も、あくびが出る。

なんとはなしにつけていたテレビも、興味をそそられなかった。好きなドラマは明日だ。

また、あくび。噛み殺しながら、横へこてんと転がる。兄が最近新調してきたソファーは、具合のいい反発で美幸を受け入れた。

そろそろ先に床へついてしまおうか。

なんて考えているうちに……もう、意識は落ちてしまっていた。
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