成長する
「行きましょ」

と奈美に促され、美幸も中へ入る。じゃくり。と、踏み込んだ一瞬、妙な音がした。砂を踏んだらしい。

入って左手には下駄箱、右手には壁に貼りつけられている楕円形の姿見。その鏡面にぬっと、牙を剥き出しにした化け物の顔が映って、美幸は悲鳴をあげた。

「なに、どうしたのよ」

奈美に訝られながら振り返ったげた箱の上には、木彫りの仮面が飾られていた。

どこの民族物だろうか。日本の獅子舞が西洋にかぶれたようなそれは、ただ気色悪かった。デメキンのように丸い目が、こちらへ向きそうな気がしてなお怖い。

「お邪魔します」もなしに靴を脱いだ奈美が上がり込む。さっきの幼女を探しているのか、それともほかに用のある人物がいるのかいないのか、廊下から覗けるすべての部屋に首を突っ込んでいく。失礼千万だ。

美幸は、家の人にどやされまいか肝を冷やしながら、小声で「お邪魔します」と告げた。

奈美が一度チェックを入れているが、つい、同じように部屋を覗いてしまう。
< 32 / 92 >

この作品をシェア

pagetop