成長する
どうしてだろう。昼間なのに、ひと気がない。初めて訪れた場所というだけで、ものすごく心細くなる。今にも背後から、得体の知れない化けのもに教われるのではないか? そんな、絶対にありえない妄想が、けれどたしかに、美幸の足を震わせた。

じゃくり――と聞こえたのは、一歩踏みしめた階段が軋んだのだろうか。それとも、自分が鼻を啜った音か。

根拠のない不安に負けて、美幸は残りの段を駆け上がった。階段は、のぼりきったところで百八十度方向転換している。くるりと翻した視線――手前と奥のうち、奥の部屋のドアが、開いていた。美幸はその部屋に飛び込みながら、「奈美ちゃん!」と叫んだ。

目を白黒させて、奈美が振り返る。

「な、なによっ、どうしたの?」

「あ、う、ううん、別に……」

「はあっ?」

まさか、心細くて泣きそうになったとは言えず、奈美には思いきり変な顔をされた。

それを、

「ふ、ふ……楽しいお友達ですね」

部屋の中にいた女性が、笑う。

長い三つ編みを肩から流し、ベッドの上で横座りしている彼女は、高校生か、大学生くらいに見えた。

なぜか、笑っているのに目は開けていなかった。
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