成長する
女性は手探りで幼女の頭を優しく撫でながら、

「やめたほうが、いいですよ」

と言った。

それは、美幸がこの部屋にいない間に交わされていた会話の、続きなのだろう。

意味を組めない美幸と違い、奈美は唇を噛み、唸った。

「どうして? 力になってくれるって言ってたじゃないの」

「私は言ってませんよ。言ったのは、和幸くんですから」

「どうしても協力してくれないわけ?」

「ええ、ごめんなさい。回避できることに首を突っ込むのは、やめたんですよ」

話している間もずっと、ちっとも、女性は瞼を開かない。ケガをしているようにも見えないし、眠気を帯びているようにも思えない。

まるで、見たくないものを見ないようにしているようだった。

奈美は唇を噛むだけではイライラが収まらないのだろう。じゃくりと、変な歯軋りも聞こえた。

そんな奈美を、彼女は目も開けないままどう見たのか。

ただ一言、念押しのように繰り返した。

「やめたほうがいいです。アナタの手にはおえないでしょうし、この世には、知らず関わらずでいたほうがよいことも、たくさんあるんですから」

どことなく、過去の自分と照らし合わせたような、二つも三つも意味が隠されている言葉だった。
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