成長する
階段を転がるように下りて壁にぶつかり、それを手で押して駆け出す。早く逃げなければ。早く逃げなければ。あの幼女が、風のように追いかけて自分を捕まえ、あの女性のところへ引きずって連れ返すかもしれない。バカな想像だとは、思わなかった。

キッチンの見える角でもさっきと同じようにぶつかって、押して、駆け出す。玄関ではマットに足を滑らせ、そこで待っていた奈美を驚かせた。それにも構わず、もはや裸足のまま外へ飛び出し、眼前を車が横切った。

「ひっ!?」

猫だましを食らったように跳ねてようやく、スパークしていたなにかがプチリと切れた。アスファルトにぺたりと座り込む。向こうの角を折れた車を見送った時、

「ちょっと美幸! どうしたの! なに考えてるのよ!?」

美幸の靴を持った奈美に肩を掴まれ、振り向かせられた。

「楓さんになにか言われたの? ねぇ、どうしたのよ急に!」

楓さんとは、あの女性のことだろう。

それくらいはすぐにわかったが、

「……わかんない……なんか、急に怖くなって……」

「怖くなって……って、なにが?」

「……わかんない」

「はあっ?」

自分のことはまったく、わからなかった。
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