成長する
言葉を投げ合ってる間に、ビニールの音が近づき、兄がリビングに入ってきた。

自分の席に座っている奈美を見つけ、特別表情も変えることなく、

「いらっしゃい。いつも美幸がお世話になってるね」

と、父兄としてもっとも一般的な挨拶をした。

「は、はい。お邪魔、してます」

答える奈美は、気のせいか、自分と二人きりの時よりも肩幅が数センチ狭くなっている。縮こまっているのだ。しかも、視線まで若干俯いている。らしくない。

二人の後ろを抜けてキッチンへ進む兄を、奈美はぼんやりと目で追っていた。

「奈美ちゃん?」

「うん……?」

「どうかしたの?」

「うん……美幸のお兄さん、初めて見たけど……カッコいいわね」

「ええぇーっ」

そんなこと初めて言われた。

縮こまってみたり、心なしか頬まで赤く見えるのは、そういうわけか。

だが、奈美は武道家のはずである。そういうところで育った奈美なら、自分より強い男が好きではないのか。
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