成長する
「ウチのお兄ちゃんのどこがいいの? 見ての通り色白だし、ひょろひょろしてるし、たぶん奈美ちゃんより弱いよ?」

「わかってないわね、それがいいのよ」

冷蔵庫の前で買ってきたものを出し、並べている兄の背中を、奈美は熱視線で見つめる。

「ウチの兄貴達ときたら、どいつもこいつも筋肉まみれで、もう……」

「ふーん?」

「ああどうしよ……見れば見るほど素敵だわ……。ねえ美幸?」

「ンー?」

「アナタ、将来私の妹にならない?」

「え゛っ」

そこまで話はいくのかと、美幸の中のなにかがフリーズした。

人は、自分にないもの、手に入らないもの、真逆のものを求めるという。奈美の好みも、同じ心理なのだろう。ひょっとしたら奈美の理想の男像は、意外にも、白タイツと白馬で決めたプリンスではないだろうか。……少し、想像できなかった。

「まあ、ゆっくりしてくといいよ」

と、こちらの会話が聞こえていないらしい兄は、一目惚れされているとは露知らず、暢気なものだった。

「なんなら夕食も食べていけばいい。ほら」

そうして掲げて見せたビニール袋の中は、うっすらと赤かった。

兄は笑う。
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