成長する
「いい肉が買えたんだ。今日はすき焼きにでもしよう。人数がいたほうが楽しいだろ?」

「すき焼き! やった♪」

「っ、すき、ゃ……っ」

その瞬間、二人の反応はまっぷたつに分かれた。

単純に肉料理が好きな美幸の声は黄色くなり、対して奈美は、青くなっている。見開かれた眼は、今この場にはないなにかを幻視し、焦点が定まっていない。

「う゛っ」

口を押さえた奈美が前のめりになる。その時、奈美のボールペンが床を打った。ころころとテーブルの下へ転がっていく。

「みゆ、き……」

「ど、どうしたの奈美ちゃん!?」

「お手洗ぃ……どっち……」

「!」

今にも吐き出しそうな親友の様子を見て、察した。

親友を目の前で殺されて、『肉』など食べられるはずがないのだ。

ここ数日で奈美はずいぶんやつれた。それは親友を目の前で失った心労ばかりではなく、精神的に食が細っていたのだ。
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