成長する
知り合いではないが、奈美が今日録を依頼しようとした楓の知人である。悪い人、ではないのだろう。

美幸が質問に対して頷くと、和幸は「はあ~」と疲れた息を吐いた。

「そうじゃ、ねぇーんだけどなあ?」

「え?」

「いやだからさ、お前、これでひとりになるの、何回目だ? ひとりになんの、これが初めてなのか? ン? ちょっと思い出してみろよ」

ちょっと、というのは、いったいどれだけの尺度で言っているんだろうか。

どこまで、振り返ればいいのだろうか。

どこまで……どこまで……

小学校?

幼稚園?

それより、前?

(――あれ……?)

そのときだった。

(ま、待って……?)

美幸は、息詰まったのである。

(あれ、私、そんな……)

思い、出せないのだ。

小学校、幼稚園、それぞれの時間で時間でともに過ごしたはずの、友達の顔も、名前
も。

奈美や琴美とは違う友達がいた。いたと思う。だけど、いったい、どんな顔で、どんな声で、どんな性格で、なんという名前だったか。

「わかん、ない……」

と答えたのが、今朝の職員室とで、デジャヴだった。

「私、わ、わかりません……。どうして、どうして私、昔の友達のこと、――奈美や琴美より前の友達のこと、わからないんですか!?」

恐怖に近い記憶の欠如に、美幸は叫んだが、

「へっ。俺が、知るかよ」

和幸は、鼻で笑っただけだった。
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