成長する
――いい肉が買えたんだ――

兄の言葉がリフレインして、まさか、食べるのだろうか? と思った。

しかし、奈美の言葉を続いて思い出す。

犯人は、化け物のような姿をしているらしいが、少女なのだ。

少女が、少女の手足を、肉を、食べる?

わけがわからない。

それでは本当に、化け物だ。もし本当に、そう、真に化け物の仕業なら、犯行の動機を考えるだけ、無駄な気がした。

獣が獲物を狩り、食べるのに、理由なんてあるんだろうか。そこにあるのは欲望と、それを満たす衝動だ。総じて、本能と称される。

しかし、化け物の行動理由が本能によるものだけだとしたら、琴美と奈美が二人でいた時、どうして、遠くへ逃げていた琴美を襲ったのか。

奈美は倒れていた。琴美は逃げていた。

傷ついているものから襲う――それが、手軽だと思うのに。

それとも、逃げている相手を襲いたいのだろうか。

その心理は、美幸にはわからない。

結局そうやって、わからないわからないとばかりスパイラルしていくのだろうか。

思考の螺旋階段は、いずれはちゃんと、真実という床へ下りられるのだろうか。

自分の頭では、無理な気がした。

いつだってそうなのだ。

肝心なところで行き詰まる。そして、いつだって、だれかを羨んでいた気がする。

小さい頃からそうだった。今となっては、過去の友達の顔を思い出せないように、なにをうらやましがって、なにをほしがっていたのかまでは思い出せないが、小さい頃から、そうだった。
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