成長する
「か、帰らなくちゃ……」
体内時計が狂ってしまった美幸に、今の正確な時刻はわからない。少なくとも夕方四時ではない。たぶん、七時が八時は過ぎている……いや、下手をしたらもっと。
立ち上がろうとしたが、木に寄りかかってという妙な体勢で眠ってしまったせいか、足も痺れていた。
「っ、もう……!」
動かない体を恨めしく見やった美幸は、目を見開いた。
自分の両足を拘束するように抱き締めた少女が、そこに、いた。ワンピースらしきものを着ている。が、もとは白かっただろうそれも、様々な汚れや黄ばみで、濁った灰色になっていた。
少女の肌はまるで、ずっと水に浸かっていたように青白く爛れ腐り、髪も、海藻のように汚く傷んだ黒だった。少女の爪が皮膚をちりちりと裂き、吐息が、膝の裏あたりを生あたたかく湿らせた。
「ひっ」
と悲鳴を上げかけた時、少女の顔がこちらを向く。
無垢な笑顔だった。
年の頃は十ほど。黄ばんだり黒ずんだり欠けたりしている歯を盛大に見せびらかせ、落ち窪んだがんかに収まっている目が、ぎょろぎょろしている。片目には、瞼がなかった。くすんだ色の眼球の全容が、はっきりわかる。
目玉とは、こんなに丸いのだ。
化け物――奈美の声が頭の中で響き、この少女が例の殺人犯に違いないと思った。
(殺される、私、殺される……!!)
何人もの中学生を殺し、手足をもいだ、化け物の少女。
気持ちの悪い姿を見たくはないのに、目が離れない。観察しすぎて、少女の耳が片方ないこと、足に巻き付いている腕の肉が削げていること、指先がねじくれていることに気づいてしまった。
化け物である。化け物以外に、言いようがない。こんな状態で生きていられる人間が、いるはずない。
にもかかわらず、少女は自分の風貌をまったく理解していないように、とても無邪気に、笑う。
体内時計が狂ってしまった美幸に、今の正確な時刻はわからない。少なくとも夕方四時ではない。たぶん、七時が八時は過ぎている……いや、下手をしたらもっと。
立ち上がろうとしたが、木に寄りかかってという妙な体勢で眠ってしまったせいか、足も痺れていた。
「っ、もう……!」
動かない体を恨めしく見やった美幸は、目を見開いた。
自分の両足を拘束するように抱き締めた少女が、そこに、いた。ワンピースらしきものを着ている。が、もとは白かっただろうそれも、様々な汚れや黄ばみで、濁った灰色になっていた。
少女の肌はまるで、ずっと水に浸かっていたように青白く爛れ腐り、髪も、海藻のように汚く傷んだ黒だった。少女の爪が皮膚をちりちりと裂き、吐息が、膝の裏あたりを生あたたかく湿らせた。
「ひっ」
と悲鳴を上げかけた時、少女の顔がこちらを向く。
無垢な笑顔だった。
年の頃は十ほど。黄ばんだり黒ずんだり欠けたりしている歯を盛大に見せびらかせ、落ち窪んだがんかに収まっている目が、ぎょろぎょろしている。片目には、瞼がなかった。くすんだ色の眼球の全容が、はっきりわかる。
目玉とは、こんなに丸いのだ。
化け物――奈美の声が頭の中で響き、この少女が例の殺人犯に違いないと思った。
(殺される、私、殺される……!!)
何人もの中学生を殺し、手足をもいだ、化け物の少女。
気持ちの悪い姿を見たくはないのに、目が離れない。観察しすぎて、少女の耳が片方ないこと、足に巻き付いている腕の肉が削げていること、指先がねじくれていることに気づいてしまった。
化け物である。化け物以外に、言いようがない。こんな状態で生きていられる人間が、いるはずない。
にもかかわらず、少女は自分の風貌をまったく理解していないように、とても無邪気に、笑う。