成長する
「だだだ、だ、じょ、うぅ、ぶ……? おおおお、おええ、たん……だだ、じょ、ぅぶ……?」

「ひっ、ひぃいっ」

足に力を入れ、必死に少女を振り払おうとする。ばたつかせ、蹴りやって、少女をどうにか、どうにか剥がそうとした。

ところが、少女は美幸のスカートを掴み、地獄から這いあがるように顔を近づけてくる。生あたたかい吐息が、今度は肘にかかる。

「どどど、ぅした、んの? おえぇぇやん、ささささむ、ひ?」

舌っ足らずにもほどがある。どうやら、歯が欠けているだけではなく、舌もないらしい。喋るたびに、口の中では半端な長さでちぎれている舌が見えた。

恐怖から来る震えを、少女は寒がっていると勘違いして、よじ登ってくる。生あたたかい息を吐きつけながら、「あたぁめえ、あぇんね」と。

殺される。殺される。殺される。

そう思っていた美幸は、わけがわからない。

どうしてこの少女は、自分を殺さないのだろうか。

それとも、こうして獲物を恐怖に陥れてから、じっくり殺すのだろうか。

「っ、ぃ、っ、――っ、……っ!」

恐ろしくて、声も出ない。がたがた震えている体が、歯が、じゃくじゃくじゃくじゃくじゃくじゃくじゃくじゃくじゃく、鳴っていた。

涙腺が切れたように、涙が筋になって頬を流れていく。
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