成長する
空中でぐねぐねと動き、バランスを取り戻して幼女の背後に着地した少女だったが、落下の勢いで足が砕けた。

じゃくり。と、脆くなった骨の砕ける音が、美幸にまで聞こえたが――少女は、痛みを感じないらしい。

「ぁぅうう、ぁぅうう、おま、きやい……おあえ、きやいぃいいい……ぃいいい、ぃいいいいっ、いいいいいい……!」

ぼろぼろの手足で四つん這いになりながら獣のように唸って、唸って、幼女を威嚇する。

が、相対する幼女はどこ吹く風だった。視線は相変わらず美幸に向けていたし、背後の化け物に気を払っている様子もない。それが、襲われても大丈夫という自信からなのか、襲われることはないと高を括っているのか、美幸にはわからない。

「ぅぅうう、ふぅううう……きやぃいい、きやぃいいい……うううぅぅぅ……」

と結局、化け物の少女は名残惜しそうに闇へ下がっていく。

どうやら、幼女に敵わないと悟り、逃げたらしい。

暗闇にぽつんと灯るスポットライトの下、化け物の気配がなくなって初めて、幼女は後ろを見た。そこに、あの気持ち悪い少女の姿は、とうにない。

十秒ほど、じっくり闇を眺めた幼女は、改めて美幸へ振り返る。

「いけないんだ」

「え……?」

「いけないんだ」

それは、さっきと同じ言葉。

「い、いけないって、なにがいけないの……?」

「いけないんだ」

「だからなにが……!」

それは、あの化け物少女に向かって言ったのではないのだろうか。
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