成長する




気疲れなのか、それとも体力的に疲れているのか、鉛のように重い体をなんとか動かしながら家に戻っている途中、足音が、背後からついてきていた。

あの化け物少女のものかとも思ったが、違う。固い、革靴の音である。それも、大人の、男のもの。

ストーカーか、痴漢、だろうか。

あの化け物少女や、楓に比べたら、なんだかそれらはあまり恐ろしくない気がした。もし襲ってきたら、噛みついてやるとさえ思った。

が、次に聞こえてきたのは、「へっ」と鼻を鳴らす音だった。

「お前さ、襲ったら噛みついてやるぞって殺気立ててんじゃねぇよ」

「……和幸さん、ですか」

「ああ」

声で当てた美幸は、あえて振り返らなかった。

なんとなく彼は、すぐに後ろから消えそうな予感がしたのだ。

だから、歩みも止めない。靴音は依然、ついてくる。

「いいかぁあのな、これからストーカーとかだと思ったら、とにかく全力で逃げるようにしろよ? 襲われたとして、女の子が暴れたぐらいじゃどうにもなんねぇんだからな」

「……言いたいことって、それですか」

「もちろん違ぇよ?」

本題から入らないのは、和幸の癖だろうか。
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