成長する
奈美は、氷が春溶けを迎えたように、にっこりと満足げに微笑む。

「そう。それでいいの、美幸。それが一般人の反応なんだから。そこのバカみたいに、美学とか芸術とか言い出したら、手に負えないわ」

「にゃっにを――!!」

「お黙んなさい」

子供のようにもろ手を振り上げる琴実に、奈美は容赦ないでこピンを食らわせた。

「あはは」と美幸は笑ってしまう。

奈美の指は細くて長くて、白かった。女の子の手だった。が、その分、でこピンがクリーンヒットした時は痛い。

「うぅ、奈美ちんの乱暴者ぉ~」

「なにがよ。琴実がおバカなだけでしょ」

「ははは……。まあまあ奈美ちゃん、お手柔らかに、ね」

琴実が涙目になっていたのには少し同情したので、この辺りで仲裁に入る。

琴実が騒いで奈美が水を差す――というよりもぶっかける。それから、美幸が事態の収拾を図る。

この三人グループは、いつもこのノリだった。

「あっ」

と、線香花火が落ちてしまったような声を、琴実があげた。

「あたしさ、今日用事あるんだよねー。どうっしよ」

「なにかあるの?」

「うん~、旧繁華街に、ちょっちね。しかも西区の」

「え……」
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