クロスロードラヴァーズ
「あるのかい、郁?」
「昨日、オレと柚枝はんと梓はんの三人である人のお見舞いに行ったんや。その帰り道、何となく落ち込んでるように見えたわ。」
「“ある人”……それは誰のことかな、郁?」
「梓はんのか……むぐっ!?」
不意に、郁の口を柚枝が後ろから両手で塞いだ。
「う、うちのお母さんの友達の子ですよ!梓ちゃんは優しいから、自分のことのように悩んでくれてるんだと思います!」
「そうなのかい?」
「そ、そうなんですよ!う、うちと郁ちゃん、急用を思い出したので帰ります!」
柚枝は早口に答えると、郁の口を塞いだまま、玄関から駆け足で出て行った。
開いたままのドアから、秋の冷たい風が柳都の頬を刺してくる。
(郁……何か他のことが言いたそうだったんだけど。柚枝が嘘をつくとも思えないからなあ。)
どこか釈然としない気持ちを抱えたまま、玄関のドアを閉め、台所へ向かう柳都だった……。