クロスロードラヴァーズ



「わ、私……」


「返事は今でなくてもいい……強要する気もない。ただ、伝えたかった。」


そう優しげな笑みを浮かべて言うと、聖河は帰るかと腰を上げた。


梓は、ネコの手のように丸めた両手を胸の前にかざしたまま、俯いている。

顔はリンゴのように赤く、何か言いたげに口元が震えていた。



「帰るのだろ、梓?」


一方の聖河は、何事も無かったかのように普段通りのクールな表情で言う。



「う、うん……。」


「まだ気分が悪いのか?」


「だ、大丈夫。一人で立てるから……。」


差し伸べられた聖河の手を拒み、梓は自力で立ち上がる。



「あ、あの、聖河……。」


「何か?」


「な、なるべく早めに……返事するから……。」


下を向いたまま蚊の鳴くような小声で呟く梓に、



「気負わなくてよい。自分は……気長に待っているから。」


和やかに笑って言葉を返し、聖河は梓の手を引いて歩き始めた。
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