クロスロードラヴァーズ
「あーあ、大降りになってきちゃったよ。傘持ってきてないのに……。」
橋口 柚枝は、左手にクリーム色のエコバッグを携え、右手で頭を覆うようにして夕方の住宅街を走っていた。
ザーザーと音を立てる雨に濡れ、赤いリボンで束ねた髪は艶々した漆黒の輝きを放っている。
オレンジがかった瞳は、恨みがましげに灰色の雲を見上げていた。
(お母さんに迎え来てもらった方が良かっ……)
「きゃっ!?」
不意に、彼女の思考を遮り悲鳴を上げさせたものは、雨天時に自動車が走って行く時に起こす水しぶきだった。
バシャリと音がしたかと思えば、柚枝の上着とズボンに泥水がかかっていたのだ。