クロスロードラヴァーズ
苦悩の午後
その日の午後、宇都町 梓(うづまちあずさ)は二階の屋根の上でうずくまっていた。
体調が悪いわけでも無ければ、そこから身を投げようというつもりでもない。
ただ喧騒やいろいろな鬱憤から逃れたいだけだった。
屋根に隣接する彼女の部屋のドアの外からは、その原因となる人間の声が聞こえる。
「梓、いい加減に機嫌直して開けてくれよ!」
「梓ちゃん、開けてよー!」
ドンドンという戸を激しく叩く音と、聞こえてくる二人の人間の声。
血は繋がっていない彼女の兄の宇都町 柳都(うづまちりゅうと)と、親友の橋口 柚枝(はしぐちゆえ)の声だ。
「梓!今、出てこないと本気で怒るぞ!」
柳都はそんな脅しをかけてくるが、もう小一時間は同じことを言っている。