恋するために生まれた
家に帰ると
もう母は仕事に出て
誰もいなかった。



あたしには父親がいない。
かつてはいたけれど
あたしがまだ二歳のときに
父親は、しんだ。




母は今
小さなスナックの
ママをしている。




テーブルの上に
母からの手紙。

いつも母は
何か書いていく。




『ユウへ。

  冷蔵庫にカレーが入ってます。
 戸締まりに気をつけてね。
 おやすみ』




冷蔵庫を開けると
カレーがタッパーに入っていた。



どんな忙しいときも
手料理を用意するのが
母のポリシーらしく

それがあたしには
少しだけ、窮屈。




コップに牛乳を注いで
カレーとご飯をチンすると
さくっと夕食を済ませて
あたしはシャワーを浴びた。




いつからか
一人の夜が好きになった。


母がいないと淋しくて
毎晩泣いたこともあったけど
今は母がいない夜の方がいい。



親子は時に
他人より窮屈になる。






あたしは
今度はベランダから
夜の空を見上げた。



「明日も晴れだな」

牛乳をまた飲んで
ベッドに入った。
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