恋するために生まれた
キレイにアイロンをかけた
ツバサの服を紙袋にいれて
大事に抱えながら
あたしは病院に向かった。



屋上に行くと
すでにツバサはいた。

柵に寄りかかって
ひとりで空を見上げていた。





――キレイ。

ツバサはキレイ。
本当に翼が生えて
どこか飛んでいってしまいそうだ。



この人に昨日
抱きしめてもらったんだなぁって
そう思ったら
鼻の奥がツーンとしてきて
泣きだしそうになった。






「ツバサ」


ツバサが振り返り
すごく嬉しそうに笑った。



「おせーぞ」


ツバサに駆け寄って
紙袋を渡す。


「昨日借りた服」

「おぉ」

「ありがとう」

「どういたしまして」



あたしもその隣に立って
柵に寄りかかる。

一緒に空を見上げる。




「俺…」

「ん?」

「俺、おまえに出会って
 初めて空をキレイだって
 感じた気がする」

「…空はずっと、キレイだよ」

「今まで空なんて
 見上げたことなかった」



今日の空は青くて
どこまでも澄んでいる。

キレイで
少し、物悲しい。




「地上なんかより
 ずっとキレイなんだな」

「うん…」





あたしたちは
そのままずっと
空を見つめていた。



もうあたしたちに
言葉なんか、いらなかった。
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