恋するために生まれた
「退院したら
 海でも行こうぜ」

「海?
 もうすぐ11月だよ?」

「見るだけでもさ。
 好きなんだ、海。」



そう言うと
ツバサはフッと笑った。




ツバサにはきっと
心の奥に抱えている
孤独がある。

まだあたしは
そこには立ち入れない。

ツバサの表情が
そう語っている。




あたしにも
たくさんの孤独がある。
いつもそれを
かみ砕いて、
飲み込みながら、生きてきた。

そうするしか術がなかったから。




だからといって
あたしがツバサの孤独を
100%わかってあげられるとも
埋めてあげられるとも思わない。

その人の傷みや苦しみは
その人自身にしか
わからないから。





「食べないなら
 もう一個もらうよ」

あたしは箱に残っている
もうひとつのケーキを
フォークで指した。


「ブタになるぞ」

「そっちこそ」


あたしたちはクスクス笑って
ふたりでひとつのケーキを
突きあって食べた。
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