恋するために生まれた
「おせーぞ」





病室を開けた途端
ツバサは
私服でふてくされたように
そう言った。





「初めて見た」

「何を?」

「ツバサの私服姿」

「ばぁーか」




いつもと違うツバサ。

ドキドキする。
同じ人なのに違う人みたい。





「ほらっ行くぞ」

「荷物これだけ?」


ツバサの手には
スーツケースひとつしかない。


「あー…徐々に
 持って帰ってもらってたから」

「あぁそっか」




ツバサは家族の話を
避けている。たぶん。



「荷物持つよ」

あたしがスーツケースに
手をかけようとすると
ツバサはその手を掴んだ。



「女に荷物なんか
 持たすよーに見えるか?」



顔が近くなって
心臓の鼓動が早くなる。

ツバサにも
聞こえてるんじゃないか、って
そのくらいあたしは
ドキドキしていた。




「ほら、もう行くぞ」



そのまま手をつないで
あたしたちは病院を出た。


ツバサは
止まってたタクシーに乗り込むと
行き先を運転手さんに告げ

「早く乗れよ」

と言った。



「えっ…いいの?」

「乗んねーの?じゃあ行く」

「あっ…のっ…乗るっ!!」


ツバサはそんなあたしを見て
笑っている。
からかってるのだ。


母とツバサは、
実は似てるのかもしれない。
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