恋するために生まれた
「でも、もういないんだけどねっ」

「えっ…」

「二歳のとき、しんじゃったの」



ツバサが相槌をうたないで
黙りこんだ。





お父さんがしんだ、なんて
引いたかな…


まだそんなこと話せる間柄じゃ
なかったのかもしれない。


あたしは
この話をしたことを後悔して
下唇を噛んだ。




「ごめん…」

「なんで謝るんだよ」



ツバサの顔を見上げると
ツバサの目から
涙がツツッと流れた。



「…ツバサ…?」




ビックリした。

男の人の涙を見るのなんて
初めてだったから。



あたしが指で
そっとツバサの涙を拭うと
ツバサはあたしを引き寄せ
抱きしめた。





「…カッコ悪いな、俺…」

「そんなことないよ」

「これからはユウのこと、
 俺が守ってやる」

「うん…」

「大事にするから」








“俺が守ってやる”


“大事にするから”





ツバサの言葉が

ツバサの体温が

温かく染みわたり
今度はあたしが涙を流した。






涙が温かい、ってこと
あたし生まれて初めて知ったよ。



ツバサツバサツバサ。

あたしのことで
泣いてくれるあなたを
あたしが守ってあげたい。





抱きしめた手をゆるめて
ツバサはあたしの顔を見る。



「なーに泣いてんだよっ」

「ツバサが泣かしたんでしょー」

「へへっ。鼻赤くなってやんの」

「もーぅ…」



ツバサの髪が
あたしの目にかかり
目を閉じると
唇が重なった。



温かくて、やわらかい
あたしを安心させる魔法のような
キスだった。
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