無花の桜木
唖然とする娘を置き去りにして、話は進んだ。

幼馴染との縁談の話は、初めからなかったかのように、気づけば祝言の日までもが決められていた。



娘は信じられなかった。



村中の人々が、幼馴染との縁談を祝福してくれていた。

なかでも、両親はとても喜んでいてくれたはず。

それなのに…。



娘は、必死になって頼んだ。

先方には断って欲しいと、何度も何度も…。

しかし、父親は首を縦には振ってくれなかった。

それどころか、「祝言の日まで大人しくしているように」と、娘を家に閉じ込めた。



欲に目が眩んだ父親は、もはや娘の慕う優しい父親ではなくなっていた。





娘は、部屋に篭り、食事を取らなくなった。



以前よりも質の良い料理が手付かずの状態で下げられるたび、母親は心配し、胸を痛めた。

しかし、母親でも、父親を説得することはできなかった。

それどころか父親は、頑なに縁談を拒む娘の姿に怒り、その矛先を娘の想い人に向けようとしていた。
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