無花の桜木
村から男が居なくなり、それから間もなくして、娘は祝言の日を迎えた。



夫は優しい人だった。


不満があったわけではない。

不便があったわけでもない。

しかし、やはり幸せにはなれなかった。



娘の心の中には、いつも男の存在があり続けた。





あの別れから半年が過ぎ、冬も終わりを迎えるある日のことだった。



床に臥せってしまった母親を見舞うため、娘は約一年ぶりに村へと戻った。



あの頃とは変わらない景色。

しかしその中で唯一、娘のかつての家だけは違っていた。



母親は、久しい娘の姿に喜んだ。

娘も、母親との再会を喜んだ。


ただ、父親との再会だけは、どうしても嬉しく思うことができなかった。

幼馴染のことを想うと、どうしても許すことができなかったのだ。



父親は、娘がまだ幼馴染を想っていると知り、激怒した。

そして怒りのままに、母親が必死に隠していた事実を口にしてしまった。


それは娘にとって、何よりも辛く、悲しい事実…。
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